2010年10月〜2012年3月まで愛知県新城市の湯谷温泉郷にて、展示・制作していた美術作品「うつる」についての記録です。
(写真はクリックすると大きくなります。)

2012-03-17

霧の山と梅の花の車窓/作品搬出

約1年半ほどの展示期間を通して、いろんなことがあった作品を撤去する日が来ました。
事務局の方と相談してこの日に決めたものの、朝からなかなかの大雨。
運が良いのか悪いのか…。

予定の列車に間に合わず、初めて特急ワイドビュー伊那路に乗車。
奥三河地域では湯谷温泉駅に停まるのです。

ちなみに内心おそるおそる買ってみた特急券は、
意外(?)とお手頃な値段でした。
…もっと早く知っておけば良かったかも。
※他に乗車距離に応じた乗車券が必要です。また、価格や運行列車、停車駅などは改訂されることがあります。乗車前に鉄道会社からの情報をお調べください。

駅に到着すると、1月の終わり頃ではかたい蕾だった梅の花が満開でした。
寒さで開花が遅れているとのことですが、タイミングが合ってラッキーです。
待ち合わせしていたスタッフの方とお会いして作品へ。
強くなるばかりの雨脚に困惑しながら作業の準備をしました。
撤去前に作品の下を覗いたところです。
昼間が長くなっても寒い日が続くからか、こちらでの芽吹きはまだみたいでした。
でも苔は真冬の頃よりも確実に元気、な気がします。
撤去作業自体は初冬に再設置をした所為か、草木が絡みつくこともなくあっさりしたもの。
雨天故に土台の金具から外した作品の雨水を切ることと、
それを水漏れさせずに持ち帰るために梱包することに気を遣いましたが、
無事に終えることができました。

作業後はまた送り届けていただいて再び駅へ。
電車の到着までには少しだけ間がある上、訪れる度に見ている場所を見たかったので、
ちょっとだけ散策へでかけました。

駅前の取り壊し中の建物。
かなり解体が進んで向かいの川岸の旅館や山が見えるようになっていました。
傘のように霧をかぶっています。
雨の宇連川。
毎回のブログには載せていませんが、訪れる度に撮影している場所の一つです。
今回も浮石橋の上から1枚撮影しました。
駅舎に戻って、昨年秋より改装された待合室へ。
若山牧水がこの地に訪れた時のことを記した「鳳来寺紀行」(1923年)の一節を読むことができます。
この木造の駅舎は、大正時代に当時の鉄道を経営していた鳳来寺鉄道によって建てられたとのこと。
現在は老朽化もあり立ち入ることができませんが、
二階を「湯谷ホテル」という名の宿泊施設として使われていたそうで、
牧水も二度ほど宿泊したとのことです。

それにしても偶然(?)、大雨の日に牧水がここに訪れた時のことが記されています。
季節は夏の7月。
きっとこの日よりも雨量は多いに違いないのですが、
読みながら勢いよく降る雨の様子や二階から牧水が眺めた川の流れの描写に頷いてしまいました。

駅のホームから駅舎と山を背景に。
帰りの線路沿いもこんな霧と山、花の風景が続きました。
もう半月経てば桜の季節です。
ずっと雲と霧が立ちこめた雨の日でしたが、本格的な春を予感させる暖かい日でした。

2012-01-29

冬空の下に春の気配(後篇)/にぎわう温泉街

午後になって作業を切り上げて、踏切近くの「おかみ茶屋」へ向かうと、
今日はこれから企画展の作品の「アートガイド」をするよ、とのことで付いていくことに。
1日に2回とのことですが、午前と午後でまわる場所が違うようです。

※「新城市企画展」の各イベントは、それぞれ開催日が限定されています。きてみん!奥三河」のサイトにてよくご確認ください。

ちなみに今年も各旅館の受付で押してもらえるスタンプを集めて
温泉入浴券がプレゼントされる企画が行われています。
「湯の風 HAZU」では、エントランスの他に
川を臨む気持ちのいいギャラリースペースでも展示が行われていました。

「ゆかわ」でガイドをされる土屋さん(左側)。
学生さんとのことですが、
多くの作品とその内容、制作手順などを
ほとんど淀みなくすらすらと解説されていました。
すごい。。
(前夜眠れなかったまま来ていた私は、この日急に自分の作品を解説することになってもうまく話すことが出来ず散々たるものでした…。)
こちらは「翠明」の別館の利修庵の2階。
紙谷さんが建物いっぱい使って展示されていました。
それにしても駅から歩いて通るたびに見ていた建物の中に、
こんなお座敷があったとは!

あちこちを周り作品を鑑賞する一方で、
いろんな佇まいの旅館があり「こちらの旅館もいいな」と
行く先、行く先で目移りしてしまいます。

イベントの情報ステーションの一つになっている「おかみ茶屋」では、
「手づくりチャレンジ」というアートやクラフトが気軽に体験できるワークショップのうち、
「吊るし雛を作ろう」「タイルアート体験」が開かれていました。
縫いものでできるものに興味があったので、吊るし雛を作ってみることにしました。

こちらで作れるのは、上のようなコノハズクと桃です。
私は桃にチャレンジ。
カットされている小さな布を手順を教わったり、
見本を見せてもらったりしながら縫い合わせて綿を詰めます。

出来上がった吊るし雛はスタッフの方が紐につなげていきます。
ひな祭りまで休日である火曜を除いて毎日行われるそうです。
普段細い糸ばかり使っているからか(?)ついつい縫い目が細かくなり、意外と時間がかかりました。

ちょうど2人の年配の女性が制作されているところに居合わせたのですが、近所の方なのかそれとも観光で来られたお客さんなのか…、訊ねないとわからないほど熱中されて溶け込まれていたのには驚きました。
私自身にとっても、縫いものが好きという人たちのおしゃべりを聞きながら手を動かして作る時間はとても楽しかったです。


帰り道、駅のホームから見える梅の木を撮ってみました。
日が長くなって陽射しもあたたかく感じられるようになってきましたが、
花が咲くのはもう少し先みたいです。

寒波の到来が話題になっていますが、カレンダーを見てみれば、次の週末には立春なんですね。
そして今年も2月から湯谷温泉の大駐車場の舞台で花祭りが始まります。

冬空の下に春の気配(前篇)/現地制作6th

少し早めの飯田線に乗って到着したのが朝の9時半頃。
さすが休日。車内の雰囲気を観察するだけでもちょっとした高揚感が味わえます。
旅行やトレッキングに出かけるグループもいれば、
鉄道ファンに人気がある路線ということもあり、車内でもカメラをしっかり握るお客さんもちらほら。

湯谷温泉駅でも昨年の秋から駅舎で運営されている「Café de 牧水」が話題になったり、
前日の28日からきてみん!奥三河の新城市企画展が開催されている所為か、
まだ開催時間には早いもののいつもは静かな温泉駅も少しそわそわ。
普段見かけなかった層のお客さんが降りていて、何だか違うところに着いた気分。

そんな様子を横目に見ながら、とりあえず先に作品へ。


重なる木々の影が、作品や白く冬枯れした地面に落ちていて、
ふとした角度で一体化して見えたので1枚。


晴れの日が続いているからか、川の流れも穏やか。
この日は天気が良くて青空が川面に映り、水がきらきらと光ってとてもきれいでした。
写真はつり橋から馬の背岩がある方向を見たところです。


それにしても、冷たい風が強くビュービュー吹いているのでびっくり。
寒い!!
でも…落ち着いてみると、陽射しはとてもあたたかいのです。
ちょっとだけですが、春が近付いて来たのを感じます。


布越しに透けた枯れた植物の枝やつるを、小さな森に見立てて。

作品の上に積もっていたカエデの種。

後篇に続く)